フリーランスのための法律を元弁護士が解説!vol1
先日、このようなニュースが流れていました。
「2020年に行われる東京オリンピックで、観客は国際オリンピック委員会の事前の許可なくしては、撮影した写真や動画をネットに投稿してはいけないことが決定された。」
選手の写真だけではなく、観客が応援している様子なども投稿してはならないとのことです。
https://www.asahi.com/articles/ASM5Q7J9YM5QUTIL082.html?ref=hiru_mail_topix1
つまり東京オリンピックでは、せっかく観戦に行って白熱の試合状況を撮影しても、SNSでシェアすることができないのです。選手だけではなく単なる応援風景すら投稿が禁止されます。観客が撮影した写真の著作権は、IOCに譲渡される規約になっています。
いったいなぜ、このようなルールが設定されるのでしょうか?
実は、これは著作権法などの法律上の規定によるものではなく、オリンピック開催側が定めた独自のルールです。そのためこの規定には「制限が厳しすぎる」「著作権侵害にならないのになぜ?」という批判も寄せられています。
ただしこのルールがなくても、試合における選手の写真を撮影したり投稿したりすると「肖像権」との関係で問題になる可能性があります。
以下では肖像権がどのように認められるのか、また著作権との違いや肖像権侵害になるかならないかの判断方法などをご説明していきます。
1.肖像権とは
オリンピックなどで選手の写真を撮影すると、肖像権侵害になるのでしょうか?
知っているようで知らない「肖像権」。
そもそも肖像権とはどのような権利なのか、理解しておきましょう。
肖像権とは、「自分の姿をみだりに撮影されたり公表されたりしない権利」です。
誤解されていることも多いのですが、肖像権は「誰にでも」認められます。有名人だけではなく一般人にも認められますし、大人にも子どもにも認められます。
また肖像権は「勝手に写されない権利」「勝手に公表されない権利」の2つを含みます。
無断で撮影された場合にはもちろん肖像権侵害ですが、撮影について許可していても勝手に投稿されたらその時点で肖像権侵害となります。
たとえば友人と一緒に写真を写すとき、撮影について許可を得ていたら写真撮影しても肖像権侵害にはなりませんが、友人の許可なくツイッターに投稿したらその時点で友人に対する肖像権侵害になってしまいます。友人から差し止め請求や損害賠償請求を受ける可能性が発生します。
2.肖像権法はあるのか
著作権には「著作権法」という法律があって守られていますが、肖像権には「肖像権法」があるのでしょうか?
実は肖像権について定めた明確な法律はありません。肖像権は判例や解釈によって認められる権利です。
そこで肖像権についてわからないことがある場合、「肖像権法」を探して調べようと思っても不可能です。これまでの判例や弁護士などの法律家に聞いて正しい、解釈を知る必要があります。
3.肖像権と著作権の違い
ネットで写真を投稿するときには、肖像権と著作権の両方に配慮する必要があります。
以下では具体的に何に気をつければ違法にならないのか、具体的に説明していきます。
まずはこの2つは何が違うのでしょうか?混乱している方もいるのでご説明しましょう。
著作権とは、思想などを芸術的な方法で表現した著作物に認められる独占的な権利です。自分で撮影した写真や自分で描いた絵、文章、音楽や歌、踊りなどに著作権が認められます。
これに対して肖像権は「勝手に姿を写されたり公表されたりしない権利」ですから、両者はまったく異なります。
たとえば他人の姿を勝手に写真撮影した場合、相手の肖像権侵害にはなりますが、自分で撮影した写真なので著作権侵害にはなりません。
一方、誰かが撮影した人物の写真を勝手にコピーして投稿したら、撮影者の著作権侵害とモデルへの肖像権侵害の両方が成立します。
では、自分の写真を勝手に撮影された写真をコピーした場合、どうなるのでしょうか?この場合、撮影者に肖像権侵害されているので自分が被害者となります。
ただし写真の著作権は撮影者になるので、勝手にコピーして投稿したらこちらが著作権侵害になる可能性があります。
相手は肖像権侵害、こちらは著作権侵害ということになります。
実際には自分が勝手に撮影された写真を喜んで投稿することは少ないでしょうし、もしそんなに気に入った写真なら肖像権侵害で訴えたりしないので、現実的には想定しにくいケースかもしれません。
4.公式試合の選手を写真撮影・投稿したら、肖像権や著作権の侵害になるのか?
オリンピックなどの公式試合の選手の写真を撮影したり投稿したりすると、著作権や肖像権を侵害することになるのでしょうか?
まず自分で撮影した写真である以上、著作権侵害にはなりません。
一方、撮影される選手自身が撮影やネット投稿を了承していないなら、肖像権侵害になる可能性はあります。
その場合、選手からネット掲載の差し止め請求や損害賠償請求される可能性があります。
5.著作権や肖像権の侵害にならないのになぜ禁止されるのか
東京オリンピックでは、選手だけではなく一般の観客全体の応援の様子を撮影してSNSに投稿することも禁止されます。このような場合、著作権侵害にはなりませんし、対象人物がはっきり写り込んでいなければ肖像権侵害にもなりません。
しかも今回は、写真を撮影したらその著作権がIOCに譲渡されるという強気の規約内容になっています。
IOCは、なぜそこまでしてSNS投稿を禁止するのでしょうか?
それは、テレビ局が莫大な放映料を払っているので、それを保護するためです。
このような規制に対しては、「規制しすぎではないか」「ネットなどで拡散されてこそのオリンピックではないか」と批判もされているところです。
しかし禁止されている以上、東京オリンピックに行ったときに勝手にあたりの様子や選手を撮影して投稿すると、トラブルが発生するおそれがあるので控えましょう。
6.肖像権侵害になるかどうかの判断基準は?
さて、人には誰でも肖像権が認められるのですが、実際に写真撮影をするとき「どこまで肖像権が認められるのか」が問題になりやすいです。
たとえば旅行先などで、意図せず現地の人が写り込んでしまった場合、肖像権侵害になるのでしょうか?
この点「その辺の人なら風景と同じだから肖像権侵害にならない」と思い、平気でインスタグラムなどに人が写り込んだ写真を投稿する方がいます。しかし無名の人でもその辺の知らない子供にも、肖像権は認められます。
意図しない写り込みであっても、勝手に撮影、投稿するとその人への肖像権侵害になります。相手がネットを見て投稿された写真を発見したら削除や損害賠償請求を求めてくる可能性もあるので、注意しましょう。
肖像権侵害にならないのは、人物がぼやけてはっきり写っていないケースや、小さくてほとんど誰だか分からないようなケースです。ぱっとみて判別できる場合には肖像権侵害になると考えましょう。
7.他人の写真を撮影するための許可の要件
他人の写真を撮影するとき、どのような許可を取ればよいのでしょうか?
これについて、特に決まった方法はありません。口頭で許可を得ても有効です。ただし後々のトラブルを避けるため、実際には「書面」で許可を取るべきです。
投稿などを予定する場合には、撮影だけではなく投稿や公表も許可することを明らかにして、署名押印してもらいましょう。
今回は、肖像権について詳しく解説しました。今後の参考にしてみてください。
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