フリーランスのための法律を元弁護士が解説!vol1
先日、東京都目黒区で、5歳の女の子が親から虐待を受けて死亡する痛ましい事件が起こりました。
このニュースを聞いて、憤りを感じた方も多かったでしょう。
こうした虐待事件は時々起こっていますが、成立する犯罪はだいたい「保護責任者遺棄致死罪」です。なぜ「監禁罪」や「殺人罪」にならないのか?と疑問に思いませんか?
今回は、親が子どもを虐待死させた場合に成立する犯罪についてご説明します。
1.保護責任者遺棄致死傷罪って?
親が子どもを虐待したときの成立する犯罪は「保護責任者遺棄致死傷罪」であることが多いです。難しい名前ですが、いったいどういう犯罪なのでしょうか?
保護責任者遺棄致死傷罪は、対象を保護する義務のある人がその義務を果たさず放置したことにより、被害者が傷害を負ったり死亡したりしたときに成立する犯罪です。
親は子どもを保護する責任があるので、適切に保護せずに放置して子どもが死亡すると保護責任者遺棄致死罪が成立します。
たとえば食事を与えなかったり身の回りの世話をしなかったり家に置いたまま外出して放置していたりして子どもが死亡すると、たいていは保護責任者遺棄致死罪です。
今回東京都目黒区で5歳の幼児が死亡した事件でも、両親は満足に食事を与えていなかったということですから、保護責任者遺棄致死罪が成立するのは明らかでしょう。
2.監禁罪が成立しにくい理由とは?
それでは、今回のようなケースで「監禁罪」は成立しないのでしょうか?
よく、誘拐してきた他人の子どもなどを自宅内に閉じ込めていたら監禁罪が成立していますが、実の親が幼児を自宅内に閉じ込めていると監禁罪にならないのか、疑問に思いますよね?
監禁罪は、限られた空間に相手を閉じ込めるときに成立する犯罪です。たとえば部屋に閉じ込めてカギをかけたりすると監禁罪が成立します。
ただ、親は通常、子どもを家の中に閉じ込めているわけではありません。子どもは親と一緒でないと生きていけないので閉じ込めなくても家の中にいますし、親がしかりつければ萎縮してやはり家の中にとどまるでしょう。むしろ親が追い出しても家に入れてほしいと懇願します。このような状況では「監禁」しているとまでは言いにくいのです。
もちろん親であっても、子どもをしばりつけて逃げ出せないようにしていたら監禁罪が成立します。たとえば先日、障害のある息子を納屋に閉じ込めていた父親が逮捕された事件がありましたが、あのような事件では父親が息子を閉じ込めていたので、監禁罪が成立します。
これに対し、単に幼児と一緒に暮らしていたというだけで、特段閉じ込める行為をしていなければ監禁罪にはなりません。
3.殺人罪が成立しにくいわけ
次に、親が子どもを虐待して死亡させたときに殺人罪が成立しにくい理由についてもみてみましょう。
先日のような酷いケースでも、なぜ「殺人罪」ではなく「保護責任者遺棄致死罪」になるのか、不思議に思いますよね?
殺人罪が成立するためには、人を殺すための具体的な行為が必要です。たとえばナイフで突き刺したり首を絞めたり高いところから突き落としたりする行為です。
「必要な措置をとらない」という不作為によっても殺人罪が成立する可能性はあるのですが、その場合、相当危険性の高い不作為でないと、殺人にはなりません。
また、殺人罪が成立するには「故意」が必要です。つまり、わざと殺してやろうという気持ちが必要となるのです。「このままだったら死ぬかもしれないけれど、それでもいいや」と認容している場合にも殺人の故意があると言えます。
通常、親が子どもを遺棄する場合、「殺してやろう」とまでは思いませんし「死んでもかまわない」とも思っていません。また、死ぬほどの危険な不作為もないことが多いです。
そこで、親が子どもを放置しても、なかなか殺人罪にはならないのです。
ただし、親が子どもに酷い暴力を振るって子どもが死んでしまった場合や、幼児に食事を全く与えず貸しさせた場合、子どもを不衛生な環境において病気になったのに病院に連れて行かずに死亡させた場合などには殺人罪が成立することもあります。
以上のように、親が子どもを虐待したときには、他人間の犯罪よりも軽くなりがちです。
しかし、悪質な場合には親であっても監禁罪や殺人罪が成立する可能性があります。
虐待は身近な犯罪です。いつなんどき巻き込まれるかわかりませんし、身近で起こっているかも知れません。痛ましい事件がこれ以上起こらないでほしいものですね。
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