フリーランスのための法律を元弁護士が解説!vol1
2018年7月6日、かつて「オウム真理教」の教祖として「地下鉄サリン事件」を起こし、日本中を震撼させた「麻原彰晃」死刑囚と教団幹部などの合計7名の死刑が一気に執行されました。
地下鉄サリン事件が起こった当時は、学校でも大騒ぎになっていましたし、大きな社会問題になってテレビなどでもわぁわぁと連日報道されていたので、私の記憶にも強く刻まれています。
それにしても、「なぜ今、突然7人の死刑が執行されたのか?」
その答えと死刑執行の仕組みについて、書いてみたいと思います。
1.死刑執行はどうやって決まるのか?
あなたは、死刑判決が下されたとき、いつ執行されるかご存知ですか?
実は法律上、特に決まりがありません。
判決が確定した後すぐに執行される可能性もありますし、反対に、死刑判決を受けても、何年何十年の間、執行されずに刑務所生活を送る可能性もあるのです。
死刑執行を決定するのは、ときの法務大臣です。そこで、法務大臣の個性(性格や考え方)により、やたらと死刑執行が多い時期もありますし、まったく執行されない時期もあります。
本来は、このようなことではなく、平等に刑が執行されるべきでしょうから、個人的に、このような仕組みになっているのはどうかと思います。
よく、ずいぶん昔に死刑が決定した人の刑が今頃執行されたというニュースがあって
「えっ、まだ執行されていなかったのか」
と思ったりすることがありますが、死刑は決まってもすぐに執行されるとは限らないので、そのようなことが起こります。
2.法務大臣が死刑を決定しない理由
ときの法務大臣によっては、死刑を全く決定しない人がいます。
もちろん、ご本人のポリシーなどもありますが、他にも「えん罪の可能性」と「責任をとりたくない」という気持ちがあると思います。
まず、死刑判決が下っていても、必ず100%実際に犯罪を犯したとは限りません。
中にはえん罪のケースもあります。実際に、死刑囚で「えん罪」を主張して、再審請求を繰り返している人も多いです。
そのようなときに法務大臣が死刑を執行したら、「えん罪だったら大変なことをしてしまった、まるで自分が殺してしまった」ことになります。
そういった責任をとりたくないので、死刑の決定をしない法務大臣が多いのです。
3.再審請求していたら死刑執行されない?
死刑囚の中には、こうした法務大臣の心理を逆手にとり、再審請求をしている最中は死刑を執行されないと思って、再審が認められる可能性が薄くても何度も再審請求を繰り返している人もいます。
ただ、再審請求していれば死刑を執行されないということはなく、再審請求中に死刑執行された例もあります。2017年7月にも、西川正勝という再審請求中の死刑囚の死刑が執行されています。ただし、このようなことは稀です。
再審の問題については、以下の記事に書いてありますので、関心があったら是非お読み下さい。
4.元号が変わることとの関係
今回、どうしていきなり麻原彰晃死刑囚など7名の死刑が執行されたのでしょうか?
おそらくですが、平成天皇が退位して、元号が変わるからでしょう。
元号が変わったら、恩赦なども行われます。恩赦とは、刑を免除することですから、死刑が免除されてしまう可能性があります。麻原彰晃が恩赦されてしまうかもしれませんが、そのようなことは考えられないことですし、多くの方が絶対に受け入れないでしょう。
また、恩赦が行われなくても、新しい元号が施行されためでたい雰囲気の中、死刑執行などやりにくくなるため、しばらくは執行できない状態が続くことが予想されます。
そこで、今、元号が変わる直前のタイミングで、死刑執行してしまう必要があったのです。
ニュースなどで「オウム真理教の事件は平成の時代を象徴」などと言っていますが、本当にそうですね。平成の最後にまとめて死刑を執行して、すべてにけりをつけてしまいたかったということです。
5.今の死刑制度の問題点について
確かに、死刑判決が確定していたのだから、今回それがまとめて執行されたことに問題はありませんし、私もそれでよかったと考えています。
ときどき「弁護士は死刑反対の人が多い」と思われていることがありますが、別にそのようなことはないと思います。私自身も死刑反対ではありません。
ただ、このように「元号」とかそういうことで、死刑執行するかどうか決めるのはどうなんだろう?という思いもあります。
もっと客観的で平等な基準を作るべきではないでしょうか?
死刑執行は、刑を受ける本人だけではなく、被害者やその遺族、国民全体にとっても重要な関心事です。
ときの法務大臣の個性や元号が変わるなどの国の事情で振り回される制度は妥当とは思えません。
今回、被害者の遺族の方も、死刑が執行されたことでようやく「終わった…」と一区切りつけたケースがあると聞きます。このことは反対に言うと、もし元号が変わらなければ、いつまでも死刑が執行されずに、遺族の方は事件を引きずってさまざまな思いを抱えて生きていかねばならなかったということを意味します。
つまり、今のような制度だと、本人も被害者も遺族も不安定な立場に置かれるのです。
死刑制度そのものには反対ではありませんが、運用方法をもう少し工夫して、政策的なことに使われたりせず、より平等に客観的に適用されるようにしてもらいたいな、と思いました。
ネット上で名誉毀損されるトラブルにそなえるために…
身近な法律トラブルにも備えましょう!
日常生活を送っていても、法的トラブルに巻き込まれる危険性は高いものです。
松本サリン事件でも、えん罪が大きな社会問題になりました。
万一の場合に備えて、弁護士保険に加入しておきましょう。
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